mq_overview - 約束事その他の説明 - Linux コマンド集 一覧表
名前
mq_overview - POSIX メッセージキューの概要
説明
POSIX メッセージキューを使用すると、プロセス間で
メッセージの形でのデータのやり取りを行うことができる。
この API は System V メッセージキューの API
(
msgget
(2),
msgsnd
(2),
msgrcv
(2)など) とは異なるものだが、同様の機能を提供する。
メッセージキューの作成とオープンは
mq_open
(3) を使って行う。この関数は
メッセージキュー記述子 (message queue descriptor)
(
mqd_t
)を返す。これ以降のコールでは、オープンされたメッセージキューは
メッセージキュー記述子
を使って参照される。
各メッセージキューは
/somename
の形の名前で区別することができる。
mq_open
()に同じ名前を渡すことで、2つのプロセスで同一のキューを
操作することができる。
メッセージのキューへの送受信は
mq_send
(3) と
mq_receive
(3) を使って行う。プロセスがキューの使用を終えるときには、
mq_close
(3) を使ってキューをクローズする。キューがもはや不要となった場合には、
mq_unlink
(3) を使ってキューを削除できる。キューの属性は
mq_getattr
(3) で取得でき、 (制限はあるが)
mq_setattr
(3)で変更できる。
mq_notify
(3) を使うことで、空のキューへのメッセージ到着を非同期で
通知するように要求することもできる。
メッセージキュー記述子は
"オープンメッセージキュー記述 (open message queue description)"
への参照である
(
open
(2)も参照)。
fork
(2) 実行後は、子プロセスは親プロセスのメッセージキュー記述子のコピーを継承する。
これらの記述子は、親プロセスの対応する記述子と同じオープンメッセージキュー
記述を参照している。親プロセスと子プロセスの対応する記述子は、フラグ
(
mq_flags
)を共有する。なぜなら、フラグはオープンメッセージキュー記述に
関連付けられているからである。
各メッセージにはそれぞれ
優先度 (priority)
があり、メッセージの受信プロセスへの配送は常に
優先度の高いメッセージから順に行われる。
メッセージの優先度は 0 (低優先) から
sysconf(_SC_MQ_PRIO_MAX)-1
(高優先) の値を持つ。
Linux では、
sysconf(_SC_MQ_PRIO_MAX)
は 32768 を返すが、
POSIX.1-2001 で要求されているのは 0 から 31 までの優先度を
実装することだけであり、実装によってはこの範囲の優先度しか
対応していない。
ライブラリインタフェースとシステムコール
ほとんどの場合、上記の
mq_*()
ライブラリインタフェースは、同じ名前の下位層のシステムコールを
使って実装されている。この枠組みにあてはまらないものを
以下の表に示す。
.TS
lB lB
l l.
Library interface System call
mq_close(3) close(2)
mq_getattr(3) mq_getsetattr(2)
mq_open(3) mq_open(2)
mq_receive(3) mq_timedreceive(2)
mq_send(3) mq_timedsend(2)
mq_setattr(3) mq_getsetattr(2)
mq_timedreceive(3) mq_timedreceive(2)
mq_timedsend(3) mq_timedsend(2)
mq_unlink(3) mq_unlink(2)
Linux 固有の詳細事項
バージョン
Linux では POSIX メッセージキューはカーネル 2.6.6 以降でサポートされている。 glibc ではバージョン 2.3.4 以降でサポートされている。
カーネルの設定
POSIX メッセージキューのサポートは、カーネルの設定 (configuration) オプション CONFIG_POSIX_MQUEUE で設定可能である。このオプションはデフォルトでは有効である。
持続性
POSIX メッセージキューはカーネル内で保持される。 mq_unlink ()で削除されなければ、メッセージキューは システムがシャットダウンされるまで存在し続ける。
リンク
POSIX メッセージキュー API を使用したプログラムは cc -lrt でコンパイルし、リアルタイムライブラリ librt とリンクしなければならない。
/proc インタフェース
以下のインタフェースを使って、POSIX メッセージキューが消費するカーネル メモリの量を制限することができる。
- /proc/sys/fs/mqueue/msg_max
- このファイルを使って、一つのキューに入れられるメッセージの最大数の 上限値を参照したり変更したりできる。この値は、 mq_open (3) に渡す attr->mq_maxmsg 引き数に対する上限値として機能する。 msg_max のデフォルト値および最小値は 10 である; 上限は「埋め込みの固定値」(HARD_MAX) で (131072/sizeof(void*)) (Linux/86 では 32768) である。 この上限は特権プロセス ( CAP_SYS_RESOURCE )では無視されるが、埋め込みの固定値による上限は どんな場合にでも適用される。
- /proc/sys/fs/mqueue/msgsize_max
- このファイルを使って、メッセージの最大サイズの上限値を 参照したり変更したりできる。 この値は、 mq_open (3) に渡す attr.mq_msgsize 引き数に対する上限値として機能する。 msgsize_max のデフォルト値および最小値は 8192 バイトである; 上限は INT_MAX (Linux/86 では 2147483647) である。 この上限は特権プロセス ( CAP_SYS_RESOURCE ) では無視される。
- /proc/sys/fs/mqueue/queues_max
- このファイルを使って、作成することができるメッセージキューの数に 対するシステム全体での制限を参照したり変更したりできる。 一度この上限に達すると、新しいメッセージキューを作成できるのは 特権プロセス ( CAP_SYS_RESOURCE ) だけとなる。 queues_max のデフォルト値は 256 であり、 0 から INT_MAX の範囲の任意の値に変更することができる。
リソース制限
リソース上限 RLIMIT_MSGQUEUE は、プロセスの実 UID に対応する全メッセージキューが消費する メモリ空間の量に対して上限を設定する。 getrlimit (2) を参照。
メッセージキュー・ファイルシステムのマウント
Linux では、メッセージキューは仮想ファイルシステム内に作成される
(他の実装でも同様の機能が提供されているものもあるが、
詳細は違っているだろう)。
以下のコマンドを使うことで、このファイルシステムをマウントできる:
$ mkdir /dev/mqueue $ mount -t mqueue none /dev/mqueue
マウントしたディレクトリのスティッキービット (sticky bit) は 自動的にオンとなる。
メッセージキュー・ファイルシステムのマウント後は、ファイルに対して 通常使うコマンド (例えば ls (1) や rm (1)) を使って、システム上のメッセージキューを表示したり 操作したりできる。
ディレクトリ内の各ファイルの内容は 1行であり、 キューに関する情報が表示される。
$ ls /dev/mqueue/mymq QSIZE:129 NOTIFY:2 SIGNO:0 NOTIFY_PID:8260 $ mount -t mqueue none /dev/mqueue
各フィールドの詳細は以下の通りである:
- QSIZE
- キューに入っている全メッセージの合計バイト数。
- NOTIFY_PID
- この値が 0 以外の場合、この値の PID を持つプロセスが mq_notify (3) を使って、非同期のメッセージ通知を行うように設定したことを示す。 どのように通知が行われるかは、以下のフィールドにより決定される。
- NOTIFY
- 通知方法: 0 は SIGEV_SIGNAL ;1 は SIGEV_NONE ;2 は SIGEV_THREAD
- SIGNO
- SIGEV_SIGNAL に使用されるシグナル番号。
メッセージキュー記述子のポーリング
Linux では、メッセージキュー記述子は実際はファイル記述子 (file descriptor) であり、 select (2), poll (2), epoll (7) を使って監視することができる。 この機能の移植性はない。
準拠
POSIX.1-2001.
注意
System V メッセージキュー ( msgget (2), msgsnd (2), msgrcv (2)など) はプロセス間でメッセージをやり取りするための古い API である。 POSIX メッセージキューは System V メッセージキューよりもうまく 設計されたインタフェースを提供している。 一方で、POSIX メッセージキューは System V メッセージキューと比べると 利用できるシステムが少ない (特に、古いシステムでは少ない)。
例
各種のメッセージキュー関数を使用した例が mq_notify (3) に記載されている。